三部けい作の漫画「僕だけがいない街」がとても面白い。
6巻まで発売されている単行本を一気に読んでしまった。ヤングエース(KADOKAWA)の連載を追いかけようかちょっと迷うくらいに引きこまれた。アニメ化に加えて映画化が発表されたり、「おすすめの漫画○○選」のようなブログ記事でもよく見かけるけど、それも納得の行く面白さの作品だった。
主人公はピザ屋でバイトする冴えない漫画家のアラサー青年。特殊能力としてちょっと時間を巻き戻し危機を回避しうる力=「再上映(リバイバル)」を持っている。現在発生した事件をきっかけにして、少年時代である過去(昭和の終わり)に大きく遡行してしまうことになる。記憶を呼び起こしながら、連続殺人事件の謎に立ち向かっていくSFサスペンスミステリー。
「過去に戻って未来を変える」時間遡行・タイムループというのはたくさんの作品で使われているよくある流行りの型であり、一定の面白さを持つ型ではあるのだが、この作品は頭ひとつ抜けた感がある。
時間遡行モノとして読み手をしらけさせないバランスの良さとでもいうのだろうか。読むのを損なわない程度にこの点を説明したい。
▼ 過去世界が軽くない
「僕だけがいない街」の過去世界=時間遡行後の世界の描写は現在に対する従の関係ではない。現在世界の問題解決のために用意されたおまけの世界では無い。
温かくてかけがえの無い時が流れ、自分もその中の生活を大切に生きていく。過去世界が丁寧に作られているからこそ「記憶の扉を開けながら母親や友人など人との繋がりを再確認していく」という事件解決とは別のもう一つのテーマが生き生きと見えてくる。
▼ 未来を知っていることが大きすぎる武器でもない
未来を知っていることは過去世界での事件を回避する大きな武器とはならない。移動後の世界でも、様々な困難に立ち向かわなければならない。遡行先の力と立場という制約の中で工夫しなければ事件を回避できない。
主人公の能力も自分の意志で発動できるものではなく、自由な時間の行き来は出来ない。巻き込まれる形で振り回されながら行き来してしまうというのも良い。
▼ 壮大になりすぎない
時間遡行が絡む話は「タイムパラドックスの問題」とか「巨大な組織」「この能力を用意した神々と戦う」ってな形で話が広がってしまいやすい。これはこれで熱い展開でもあるのだけど、どうにも収集つかなくなり「最初は面白かったのに~」と興ざめして適当に読んでしまうことも多い。
この作品は時間遡行という荒唐無稽な要素を持っているのに、サスペンスとしてしっかり作られていて現実感のあるものになっている。この感じがすごい。
物語だけでなく、主人公、母親、アイリ、雛月加代、ケンヤなどなど各キャラクターの描き方もすばらしくて感情移入しながら読める。女の子もカワイイ。話の引きも上手くて続きがどんどん気になってしまう。各巻の最後毎にたぶん意図してだろうけど大きな引きが用意されていて、単行本で1,2巻買ったのにKindleで3巻以降ポチってしまう。そんなレベル。
現在6巻で物語はいよいよ佳境を迎えている。それはわかる。けど今後どうなるのかはまったく予測がつかない。ああ、続きが気になる。これから夏本番、クーラーのキンキンに効いた部屋でアイスコーヒー片手に一気に集中して読みたくなるような作品。
伏線も多くヒントも張り巡らされていそうなのでじっくり考察してみるのも楽しい。未読の方へは夏休みのお供に是非ともオススメしたい。
アニメ化
TVアニメ化、2016年1月の放送開始が決まった。 製作は A-1 Pictures 。監督は「ソードアート・オンライン」や「銀の匙 Silver Spoon」を手がけた伊藤智彦氏。どこまでアニメ化するのか? 気になるけどできれば原作と合わせて完結くらいな感じで描いて欲しい。2016年冬アニメ、早くも視聴決定の枠がひとつ埋まった。
映画化
そして映画化も決定。 こちらは2016年春公開予定。連続したメディアミックスに勢いを感じる。
主人公役はなんと藤原竜也。とりあえず安心である。漫画実写=クソの流れを断ち切れる力を持つ数少ない俳優。ヒロインのアイリは今をときめく有村架純。こちらもなかなかピッタリと思う。 ただ子供時代が重要なので、果たしてそちらが上手く行くのかは気になるところである。